最高裁判所第一小法廷 昭和57年(あ)1395号 決定 1983年3月14日
本店所在地
千葉県市川市宮久保三丁目三六番一〇号
株式会社京浜商事
右代表者清算人
久保田嘉一
本籍
千葉県市川市宮久保三丁目四七〇番地
住居
千葉県市川市宮久保五丁目一〇番一二号
不動産業
岡野谷繁光
昭和五年二月一一日生
右の者らに対する各法人税違反被告事件について、昭和五七年八月一八日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人大森実厚、同大森綾子の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、その余は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 中村治朗 裁判官 和田誠一)
○上告趣意書
被告人 株式会社京浜商事同岡野谷繁光
昭和五七年一一月一三日付
弁護人 大森実厚 同大森綾子
第一点
一 原判決は、第一審判決が、地主への土地代金の支払いが岡崎工業株式会社介入後の分も含めて昭和四八年度末までに大部分終了していること、取引仲介業者である明友産業株式会社においても昭和四八年度中に土地取引が完了したとして税務処理を行なっていること等を理由に、本件土地に関しては昭和四八年度中に収益が確定したと認定したのは本件取引が未完了であり、本件土地の引渡が未了であるから事実誤認であるとの控訴趣意に対し、「被告会社は、昭和四八年度中に、開拓社に対し、本件土地を代金一三億四三二七万二六八〇円と定めて売り渡し、その代金の全額を受領して、これを売上勘定に計上しており、一方、各地主らも売買代金を金額受領して、本件土地に関する権利証等関係書類を交付し、これを用いて岡崎工業のため所有権移転登記ないし条件付所有権移転の仮登記が経由されているのであるから、被告会社としては、本件土地に関する売買契約上の債務を全て履行したものといって妨げない」と判示する。
二 しかしながら、原判決の右判示は、以下に述べるとおり、大審院の判例と相反する判断である。
所有権・地上権・永小作権・賃借権のごとく占有を内容とする財産権の売買においては、買主に現実に目的物を占有せしめることは売主の義務であり、したがって、売主には目的物引渡義務がある。特に不動産の売買においては、売主は登記の有無にかかわらず、特約のないかぎり目的物を引渡さなければならないとするのが取引の慣行であることは公知の事実である。
民法には売主の引渡義務についての明文は存しないが、同法第五六〇条の売主の財産権移転義務に含まれるとするのが通説であり、また大審院も夙に売主は目的物を買主に引き渡す義務を負う(大判大・八・六・一六民録二五・一〇四一)と明示している。
三 しかるに、原判決は、所有権移転登記ないし条件付所有権移転の仮登記が経由されていることをもって被告会社としては、本件土地に関する売買契約上の債務を全て履行したものと判示しているのであるから、前記大審院の判例と相反するのみならず、対抗要件にすぎない登記と占有の移転とを混同するものと云わざるを得ない。
よって、原判決は、右理由をもって破棄されるべきである。
第二点
一 原判決は、第一審判決が昭和四八年一〇月ころには被告会社と株式会社開拓社との間で本件土地に関する売買契約が成立していたと認定したのは事実誤認であるとの弁護人らの控訴趣意に対し、昭和四八年二月二六日に被告会社と株式会社開拓社との間で本件土地を一三億四三二七万二六八〇円で売り渡す旨の契約を締結したと認定する。
しかしながら、本件の全証拠を検討しても原判決の判示する金額は株式会社開拓社が被告会社に既に概算払がなされていたと称する金額と地主に対する未払金の合計額であるから、昭和四八年一〇月以前に右金額が算出されたことを裏付ける証拠は存しない。
二 更に、前記第一点一に記載の如く、本件取引が未完了であり、本件土地の引渡が未了であるとの控訴趣意に対し、株式会社岡崎工業に本件土地に関する権利証等関係書類が交付されていること、または同社のため所有権移転登記ないし条件付所有権移転の仮登記が経由されているとして昭和四八年度中にその収益が確定したとする。
右判示は、昭和四八年二月二六日に売買代金が一三億四三二七万二六八〇円と定められたとの事実認定を前提としているのみならず、本件土地の引渡が未完了であることを看過したものであって審理不充分と言うべきである。
三 なお、右一および二についての証拠と事実との関係については、控訴趣意書の第一の第一点乃至第三点をご参照されたい。
四 右のとおり判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があるので、原判決を破棄されたい。
第三点
一 原判決は、第一審判決の量刑は重過ぎて不当であるとの控訴趣意に対し、被告会社が第一審判決後本件で運脱した法人税を全部納付したことを認定しながら第一審判決の量刑が重過ぎて不当であるとは認められないとする。
二 右量定は、第一審判決後被告人らが改俊して本件で逋脱した法人税を全部納付したことを全く無視し犯罪自体の程度のみによって刑の量定を行なったものであり、且つまた刑罰のもつ一般予防的効果のみを過大視したものである。
三 よって、原判決の刑の量定は甚しく不当であるから原判決を破棄されたい。